、咲二の指の先をながめた。
「術、術でありますよ。術というものは、恐しい利益《りやく》のあるもんでなあ。ほれね、出ますだろう? なかなかふんだんに出ますわなあ」
咲二は息もつけなかった、婆が鬼のように見えた。こわくてこわくて、済むや否や転びそうになって、逃げ出したまま、永いこと家へ入らなかった。戸棚をあけでもしたら、さっきの婆がまた飛び出して来そうな気がしたのである。
その日一日咲二はどうにかなってしまったようにおとなしかった。壁土を食べるのも見つけられなかった。それ故、家の者達はもう利いたのだと思った。うすうす馬鹿にしていたのがもったいなかったとさえ思わせた。どうにかして、自分の寿命を縮めてもいいから、咲二を人並みにしたいと腐心しているお咲は、天にも昇る心地がした。これでなおってくれれば、何という有難いことだかと、あのきたなく、いくらか臭くもあるらしい婆が神様より尊く思えた。ヤレヤレと心から思った。そしてその晩は、傍に寝ている咲二がうなされて泣き出すのも知らずに熟睡した。自分の体の工合まで、はっきりと引き立ったようにまで感じられたのである。
二日三日と禁厭がされるうちに、咲二は
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