始めて禁厭をするとき、彼は、手足をじたばたさせ、気違いのようになって抵抗した。で、何にしろ家中の大人がかかって彼を押えつける。そのうちに、いかなときでも自分の嫌いなことをかつてしたことのない母親――お咲――の混っているのを見ると、彼は争う力もないほどがっかりもし、恐ろしくもなった。殺されそうな声で泣き叫びながらもがくのを、情ないやら、腹立たしいやらで、ごっちゃになった孝之進が、
「誰もこわいことはせぬ。静かにしないか! 馬鹿な奴じゃ!」
と叱りつけながら、帯際をとって、彼の膝元に引き据えようとして、一生懸命に力を入れた。
 水をたたえた鉢、硯と筆、杉箸、手拭などが用意され、一かたまりになってごたごたしている者達の前で、禁厭使いはわざとらしく落着いて咲二の静まるのを待っていた。
「強いかげがいると、私の顔を見ただけで、なああんた、もうそういう風にあばれるでな。かげがいやがるもんと見えますなあ」
「おじいさんの病気もかげのせいかもしれませんな、おいくつになんなさいます? え? 六十六かいな。そんならかげ六十と云うているからもう六年前にかげは消えたはずですがなあ」
 長い間泣き放題にさせられ
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