りきりはなせないつながりをもっているように迫るのである。
どうしても、アパート住居をしなければならないというのでもないのに、と二人は声を揃えて笑ったが、やがて友子はしんみりと、
「本当に誰かいいひと見つけたいわねえ、あなたと住むことの出来る。――そうすれば私たちも安心だのに」
改めて、記憶の隅までをさぐり直す表情で、毛糸の玉をころがしつつ黙って編棒を動かしていたが、
「ちょっと!」
坐り直すほど気ごんで、
「乙女さん、どうなのかしら」
「――東京にいるのかしら」
軽々しくよろこぶには嬉しすぎる、そういう気持のあらわれた顔で、ひろ子は却って妙にうたがわしそうにゆっくり云った。
「田舎へかえっていたんでしょう?」
「もうかえってますよ、一つきいて見ようか」
「もし出来たら、いいわねえ」
「とにかくハガキ出してみましょう」
乙女のなくなった良人は、ひろ子たち仲間の画家であった。その人がなくなった前後から乙女は特に友子たちに近づいて暮し、その友情に良人への愛着をもこめて、銀座辺の麻雀クラブのエレベータア係として働いて過す、気の張った、それでいて単調な毎日の張り合いにしていた。
それが乙女のためにもわるくない思いつきというように、
「私はわるくないと思うんだけれど……あのひとも今のところはやめたがってもいたんだし」
と云ったが、
「ああ、でも……どうかな」
友子はすこし声を落して、
「どうもこの頃何かあるような風も見えるんだけれど……」
それも自然と思われて、ひろ子は、
「まともないい人みつけさせてやりたいわね」
と親身な眼を向けた。友子は直接それには答えず、
「とにかくハガキ出してあなたのところへじかに返事に行くように云ってやりましょう」と云った。
二三日して、北国生れの乙女が、特有のゆったりしたおとなしい声で、
「ごめんなさい」
とたずねて来たとき、ひろ子は、用向きよりもその人のなつかしさ、その人と経て来た生活のなつかしさに亢奮をかくせなかった。重吉や生きていた乙女の良人が一緒の活動をしていた頃、二十歳をこしたばかりであった乙女は生活のために場末のカフェーにつとめていて、若い堅気な夫婦がその決心をかためたとき、乙女はひろ子のところへ着物のことで相談に来た。自分で来たというよりも、良人の勉が来させたという方が当っている。夫婦としての生活の感情などについても
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