ることでしょう。重工業の工場で女がよく働くようになっていることは、もう御存知ですね。
 隆ちゃん、あなたの馬は丈夫でしょうか。この間もニュースで、泥濘のなかを馬の口をとって一心不乱に前進している兵隊さんの顔を見て私は隆ちゃんのことを思いました。さぞ、こういう時もあるのだろうと思って。あなたの丈夫なのは分っているが、馬もどうぞ丈夫なように、と心から思います。お兄さんに時々手紙かきますか? いつか達ちゃんの手紙に、あなたが、うちにいたときはまとまった口もきかないようであったのに、そちらへ来てからよこす手紙には面白いことが書いてあって、と嬉しそうでした。
 どこかわからないが、今あなたのいるところは、日露戦争の時、亡くなった御父上の行かれたところだそうですね。さぞ深い感慨をもって山々を眺めていることでしょう。(もしその辺に山があるならば、というわけです)
 野原の様子も随分変りました。あの辺一帯は全く新興地帯で、トラックの往復もはげしくなったので、島田川の堤の上の道幅がカーブのところではすこしずつひろくなりました。島田市の先からもうチラホラ朝鮮の人のバラックが建っていて、夕方など通りがかると
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