いたしました」
そこへ出ていた坐布団の上へ両膝をいちどきにおとすように尚子は女学生っぽい挨拶のしようをした。
「御免なさいね、お火もないところでお待たせして」
多喜子は、大きめの手提鞄をあけて仮縫いにかかっている服をとり出した。
「すぐなさいます?」
「もう少しあったまってからにしようじゃないの。――でも、……おいそぎになるの?」
「いいえ、そうでもないんですけれど……」
「じゃあ、ゆっくりなさいよ。きょうはうちでも珍しくすこし風邪気味でお休みだし――……」
一二度麻雀に誘われて遊んだりしたことのある良人の幸治のことを云い、尚子は、
「でも、私、ほんとにあなたはお偉いと思うわ」
丸い柔かいウエーヴのよく似合う顔立ちにいつわりのない色を浮かべて云った。
「よくお仕事はお仕事と、いつもきっちり事務的にやっていらっしゃると思うわ。私たちなんかお友達がよったらもうおしまいよ、つい喋っちまって」
「あら。私たちだって、随分だらしないときもありますわ」
「そうかしら。拝見したことないわ」
困ったような、はにかんだような笑いかたをして多喜子はちょっと居住まいをなおした。関係から云っても、同
前へ
次へ
全19ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング