、星のこぼれそうな夜であった。
八月に生れた赤坊を一番奥の部屋でねかしつけて居ると、どっかで、多勢の男の声が崩れる様に笑うのが耳のはたでやかましくやかましく聞えて来た。
蚊をあおぎながら乳をのませて居た母は、
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「どこだろうねえ、
山村さんかい。
随分にぎやかなんだねえ、
これじゃあ赤ちゃんも寝つかれまい。
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と云いながら、ワッワッとゆれる様な音を気にしだした。
わきで本を見ながらかるく叩いてやって居たのだけれ共、あんまりひどいので、蒸して来るのを心配しながら硝子を閉めたり戸を立てたりして、フト気をつけると、どうしても孝ちゃんの家の方向である。
いつも静かな山村さんは相変らず人も居ない様になって居るからてっきりそうだと注意すると、少くとも十人内外の人が酒機嫌で騒いで居るに違いない。
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「孝ちゃんの家なのよ、
どうしたんでしょうあの騒は、
皆酔っぱらって居るんですよ。
随分いやあねえ。
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と云って居ると、今度は余程可笑しい事があったんだと見えて太い声が引き附けた様に浪を打って笑
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