チラッと見たなり返事もしずに投げてよこすので、私も受け答えをして居るうちに又気が入って、まるで二つの顔を忘れて居ると又孝ちゃんの声が、
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「君ーッ。
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と怒鳴るので頭を曲げて見ると、まださっきの処に前の様にして居る。
弟は気の毒らしい顔をした。
孝ちゃん許りなら子供の事だから何と云ったって、かまわないけれ共、二十五六にもなった女まで一緒になって、踏台か何かして、ああやって居るんだと思うと腹が立ってたまらなくなった。
ほんとにいやな女だと思って、クルッと正面を向いて真面目な声で、
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「そんな事をして居るものじゃあ有りません。
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と云った。
何ぼ何でも気が差したと見えて女はすぐ顔を引き下してしまった。
もうそれでいいのだから孝ちゃんに何にも云わなかったけれ共、どうしたらあんな大きな図体をして気恥かしくもなくあんな事をやられたものだろうと、あきれ返ってしまった。
そんな事々が皆奥さんの不始末の様に思えてならなかった。
鶏小屋が裏の家の近くになってから段々一人前になって来た雛が卵を生み始め
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