である。
その日の前五六日程大変気をつめた仕事をして居たので、久し振りで、庭土を踏んで見ると、頸の固くなったのも忘れるほど、空の色でも、土の肌でも美くしく、明るく眼に映った。
あっちこっち歩きながら、手足をどうにかして動かしたい様な気持になって居た処へ、丁度一番上の弟が毬を持って来て誘ったので、すぐ私は草履を穿いて始めた。
一杯の力を入れて投げてよこす球を身構えて受け取る時、ひどい勢で掌に飛び込む拍子に中の空気を急に追い出すパッと云う様なポッと云う様な音が出る様に互の気が合って来ると、口に云えないほど男性的な活気が躰中に漲って来る。
私は眼をキラキラ輝かせて、まるで燕の様に、私の頭の上を飛び去ろうとする球を高く飛び高[#「高」に「(ママ)」の注記]って捕えた時、今まですっかり忘れて居た裏の家の垣根越しに、
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「君の姉さん上手いやねえ。
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とひやかす様な子供の声が大きく聞えた。
見ると、垣根からズーッと越えて見える部屋の鴨居のすぐ際の処に孝ちゃんと女中が顔を並べてニヤニヤして居る。
一寸眉を寄せたきりで知らん顔をして居る私を、弟は
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