もかかわりますのに。
あんな事をなさる奥様が東京にでも有るんでございましょうか。
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と云って居た。
眉をひそめながらも笑わずには居られなかった。
磐額の様な女がベソをかきながら悪口を云って居る顔付を想像するとたまらなくなる。
其の奥さんが又来たと云うので何と云う事はなし皆が可笑しがるのである。
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「又あんな事がもちゃがあるでございましょうかねえ。
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と、女中は、待たれると云う様な素振りをして居る。
二三日の間は、家内の片づけにせわしないと見えてバタバタと朝早くからその奥さんも働いて居たが、あらまし目鼻がつくと、小さい子供を膝に乗せて、投げ座りのまんま舟を漕いで居る様子などが、まばらな松の葉の間から、手に取る様に見えた。
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「あの人は気が柔かくなったと見えて居眠りばかりして居る。
長生きが出来ていいでしょう。
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などとこっちの家では噂をして居る。
女中を一人と、親類の預りっ子か何か「清子」と云う十三四のが水仕事や何かはして居ると見えて、
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「清子、何とかをして御くれ。
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と奥さんが大きな声を出すと、店屋の小僧が出す様な調子で、その清子と云うのが返事して居るのをきいて母等は、
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「女中じゃあない様だが、
ああ朝から晩まで使われ通しじゃあ育てっこありゃあしないだろうにねえ。
可哀そうに。
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と云ってみじめがって居るし、私なんかも、あんまり立てつづけて「清子、清子」と云って居るのを小耳にはさむと、小供の守位にして置けばいいのに、どんなにかひねっこびれた子になるだろうと思い思いして居た。
一番総領が十三になる孝ちゃんと云う男の子で次が六つか七つの女の子、あとに同じ様な男だか女だか分らない小さいのが二人居るので、随分と朝晩はそうぞうしい。
上の子が、恐ろしい調子っぱずれな声を張りあげて唱歌らしいものを歌って居ると、わきではこまかいのが玩具の引っぱりっこをして居る中に入って奥さんが上気あがって居たりするのを見ると気の毒になってしまう。
家も今こそかなり皆育って静かな時が多いのだけれ共、前にはあんな事もあったのだろうと思うと、愚智一つこぼさずに何でも彼んでも飲み込んで堪える母もなかなか大抵ではなかったろうとつくづく思う。
孝ちゃんと、家の二番目の子が同じ小学校の一級違いだったので、一しきり垣根越しの交渉がすむと、
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「正ちゃん。
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と呼びながらグルッと表門の方へ廻って入って来る。クルッと顔から頭の丸い、疳の強い様な一寸もお母さんには似て居ないらしい。
奥さんがずぼらななりをして居るのに、いつもその子は、きちっとした風をして居た。
ちょくちょく下の妹もつれて来た。
ちょんびりな髪をお下げに結んで、重みでぬけて行きそうなリボンなどをかけて、大きな袂の小ざっぱりとしたのを着せられて居る。
あんまりパキパキした子ではないけれ共小憎らしいと云う様なところの一寸もない子であった。
兄達が毬投げなんかすると、木のかげや遠くの方にそれて行ったのを拾う役目を云いつかって音なしく満足してやって居るので、しおらしい感じを起させた。
私が出て行って、何か云おうとすると、はにかんでさっさと逃げて行ってしまうので、一度も落ついて口をきいた事はなかった。
最う少しパーッとした処が有れば好いがと思わないでは無かったが努めて打ち解けさせ様とする気にもなれないで居た。
孝ちゃんの親父さんと云う人は何処かの銀行へ出て居るのだと子供達が云って居るが、そんな人には似合わない、地味なしまった生活をして居るらしかった。
頭の細長い様な、細い髪の毛を右から分けて、如何にも神経質らしい人だった。
すぐ目の先に百日紅の赤く咲いて居る縁側を、懐手のまま、所在なさそうにブラリブラリして居るのなどをチラリと見た事もある。
あんな痩せた体で、よくあれだけの人数を食わして行けると、まるで自分に関係の無い事ではあるけれ共、あんまりその人の痩せ方と、人数の多さの比が甚しいので、不思議に思った事もある。
兎に角、見かけ通りに種々の事をゴツゴツと所理して行く人なので、私共の家のものがいやな思をした事も少くない。
隣なんかと、あんまり親しくつき合う事をしない私の家の風なので、まあどうでもいいわと思いながらつい、
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「ほんとうに妙な人だねえ。
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と云う様な事をちょくちょくして居た。
其の二年程前から――前に孝ちゃんの家が裏に居た頃――一番上の弟が鶏を飼い始めて、春に二
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