もかかわりますのに。
 あんな事をなさる奥様が東京にでも有るんでございましょうか。
[#ここで字下げ終わり]
と云って居た。
 眉をひそめながらも笑わずには居られなかった。
 磐額の様な女がベソをかきながら悪口を云って居る顔付を想像するとたまらなくなる。
 其の奥さんが又来たと云うので何と云う事はなし皆が可笑しがるのである。
[#ここから1字下げ]
「又あんな事がもちゃがあるでございましょうかねえ。
[#ここで字下げ終わり]
と、女中は、待たれると云う様な素振りをして居る。
 二三日の間は、家内の片づけにせわしないと見えてバタバタと朝早くからその奥さんも働いて居たが、あらまし目鼻がつくと、小さい子供を膝に乗せて、投げ座りのまんま舟を漕いで居る様子などが、まばらな松の葉の間から、手に取る様に見えた。
[#ここから1字下げ]
「あの人は気が柔かくなったと見えて居眠りばかりして居る。
 長生きが出来ていいでしょう。
[#ここで字下げ終わり]
などとこっちの家では噂をして居る。
 女中を一人と、親類の預りっ子か何か「清子」と云う十三四のが水仕事や何かはして居ると見えて、
[#ここから1字下げ]
「清子、何とかをして御くれ。
[#ここで字下げ終わり]
と奥さんが大きな声を出すと、店屋の小僧が出す様な調子で、その清子と云うのが返事して居るのをきいて母等は、
[#ここから1字下げ]
「女中じゃあない様だが、
 ああ朝から晩まで使われ通しじゃあ育てっこありゃあしないだろうにねえ。
 可哀そうに。
[#ここで字下げ終わり]
と云ってみじめがって居るし、私なんかも、あんまり立てつづけて「清子、清子」と云って居るのを小耳にはさむと、小供の守位にして置けばいいのに、どんなにかひねっこびれた子になるだろうと思い思いして居た。
 一番総領が十三になる孝ちゃんと云う男の子で次が六つか七つの女の子、あとに同じ様な男だか女だか分らない小さいのが二人居るので、随分と朝晩はそうぞうしい。
 上の子が、恐ろしい調子っぱずれな声を張りあげて唱歌らしいものを歌って居ると、わきではこまかいのが玩具の引っぱりっこをして居る中に入って奥さんが上気あがって居たりするのを見ると気の毒になってしまう。
 家も今こそかなり皆育って静かな時が多いのだけれ共、前にはあんな事もあったのだろうと思うと、愚智一つこぼさずに何でも彼ん
前へ 次へ
全16ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング