と云うのだ。安心しろ、お礼はきっと貰えるから」
「ほほう! じゃあお前は、私が一つ旅行をしないですむように仕てくれるんだね」
 笛吹きは嬉しそうに云いました。
「あのね、俺がね、先の祭の時教父の処から白い雄鵞鳥を一羽盗んだもんで、罰に教父がパトリック山迄行って来いって云ったのだよ」
 プカは、半馬鹿の笛吹きを背負ったまま丘越え、沼踰え、荒地を駆けて、到頭パトリック山の頂上迄彼をつれて行きました。頂上に着くと、プカは足で三度地面を踏み鳴らしました。すると、地面に大きな戸が開き、其を抜けると二人は一つの綺麗な部屋に入りました。
 見ると、部屋の真中には大きな黄金の卓子《テーブル》があり、其囲りに幾百人か数え切れない程沢山のお婆さんが坐っています。プカと笛吹きとが入って行くとお婆さん達は立ち上り
「これはこれは、まあよく来なさった、十一月のプカさん。お前さんのつれて来たのは何者です?」
と訊きました。
 プカは答えました。
「アイルランドで一番上手な笛吹きです」
 お婆さんの一人が床を一遍踏み鳴らしたら、壁に一つの戸が開きました。其処から何が出て来たと思いますか? ほかでもない、笛吹きが教父ウィリアムの処から盗んだその雄白鵞鳥が現れて来たのです。
 笛吹きが叫びました。
「ああ全く私と阿母さんとでその白鵞鳥をすっかり食べて仕舞ったんです。だけれども、たった左方の翼のところだけはのこして赤毛のメリーにやりました。彼奴《あいつ》が、教父に私が白鵞鳥を盗んだんだと云いつけたのです」
 白鵞鳥は卓子《テーブル》を片づけ部屋の外に持ち出しました。ところでプカが笛吹きに注文しました。
「この方達のお慰みに音楽を奏してあげなさい」
 笛吹きは云われる通り笛を吹きました。年を取ったお婆さん達は其音につれて踊り出し、皆へとへとになる迄踊り抜きました。踊りがすむと、プカは笛吹きに礼をやってくれと頼みました。お婆さん達は一人のこらず黄金の一片ずつを出して笛吹きに与えました。彼の悦びは大したものです。
「パトリックのおかげで、私は王様の子みたいに金持ちになったぞ」
「さあさあ、私と一緒に来なさい」
 プカが笛吹きに命じました。
「私が家へ連れて行ってやるから……」
 軈《やが》て二人は連れ立って外に出ました。そして、笛吹きが今にもプカの背中に来た時通りの肩車をしようとしていると、其処へさっきの雄
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