ょうは、この位にしておきましょうか」
 すると、袖口を少しずらして、蕗子が時間をみた。
「さっきお話ししました、私の友達。もう伺うと思うんですけれど――もう少しお邪魔していてようございましょうか」
「そうそう。――かまいませんよ」
 伸子は、お茶をいれに立った。このロシア語の稽古では、浅原蕗子が本体で、伸子はおしょうばん[#「おしょうばん」に傍点]の形であった。素子の友達が、同じ専門学校の後輩である浅原を紹介して、ロシア語を教えてほしいといって来たとき、素子も伸子も、大柄でおとなしくて口数のすくないその若いひとが、どうしてその勉強をしたいのか、よくのみこめなかった。蕗子は、その専門学校では国文科の上級にいた。はじめて蕗子が来たとき、素子がいくらか皮肉にからかうように、
「理由がないわけではないんでしょう。私なんぞにはいえませんか」
 笑いながら問いつめても、蕗子は、すこし顔をあからめて居心地わるそうにほほえんでいるだけで、何ともいわなかった。そんなとりなしも、蕗子の場合には、いこじには感じられず、ふくらみのある人柄が印象された。蕗子は土曜日ごとに、午後の一時間半、通って来ることにきまっ
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