になり、
「いいこと!」
十分の羨望をあらわして、伸子の肩へ自分の肩をうちあてるようにした。
「でも――どういうことになるのかしら」
伸子は、うれしさとあてどなさのまじった顔つきでいった。
「なにしろ、これじゃあね」
草色の表紙を開かれているベルリッツの「外国人のためのロシア語」は、そこに「停車場で」という見出しの頁をあけ、われわれは、赤帽をよばなければなりません、というような単純なことを教えているのであった。
「ともかく、いっていらっしゃいませ」
首をかしげた蕗子の、ぽってりとして若い顔の上を、ほほ笑みと涙とが瞬間に交錯して走りすぎた。
「二三年でしょう?――そのうちには、わたしもしっかり勉強して、役に立つようになっていますからね」
蕗子は、素子が勉強した大学の露文科へ入学することにきまっていた。
「あなたは心配ないさ。それだけ真面目にやっていれば、大丈夫ものになりますよ、ワーリャさんも熱心だってほめているもの」
「…………」
蕗子は、伸子たちがいなくなってからの自分の生活の思いにとらえられたように、細い青桐の葉が茶色になっている隣家の生垣の方へ目をやっていたが、小声のひ
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