す」
と答えた。昔亡夫は大学教授であったというのり子の家庭のあらましが、そのピアノのことからだけでもおしはかられた。
「――母もすきで、下手でございますけれど弾きますの、若いころには音楽学校に入りたかったんですって」
のり子は、来年の春、その大学を卒業しようとしているのであった。大島のり子というひとは、いい紙に大きい仮名でかかれた手紙のような感じだった。ペンでつめた字ばかり書いている伸子にとっては、のり子と向い合って話している気分の行間が、いかにもゆっくりのびていた。そして、そのゆったりとられた行間はただの余白というのではなくて、かかれた文字の余韻の響いているところという風だった。伸子に、こういう若い友達は珍しかった。のり子としては、哲学も、つまりは人間の趣味の一つと考えているというのが、そのままうなずけた。
のびやかに話している大島のり子の、どこやら漱石の女性が進化したような雰囲気を感じながら、伸子は、このひとがもっている話したいことというのは、どういう事なのだろうと思った。もしかしたら、肝腎のそのことには結局ふれずに帰るひとなのかもしれない。
大島のり子は、テーブルの上に出て
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