ず》れゆくものとしての挨拶でなくてなんであろう。
 しかし、それは、絢子のいう意味の接吻とは全くちがう。本質がちがう。絢子にそれは理解されないだろう。
 沈痛に沈黙している伸子を、じりじりした眼で見まもっていた絢子は、どうしても信じるらしくない伸子を屈伏させようとするように、そのことで、自分が男心を惹きつける女性であることを力説するようにいった。
「佐々さん、まだ信じて下さらないんですのね。でも、男のかたのこころというものは、微妙なものですわ」
 そういう事情に通じない伸子を憫笑するようなほほえみを浮べた。
「久地浩さんも、私に接吻なさいました。でも、あのかたなんかはね……」
 世評にもいわれているとおりなのだから、という声の表情だった。
 絢子のいうことが事実であるにしろ、ないにしろ、そういう話しぶりをする絢子のこころは普通でなくなっている。
 伸子は、
「ひととひととのいきさつには、きっと、はたではわからないようなこともあるものなんでしょう」
 自制して、おだやかにいった。
「私にはわからない事実というものもあるんだろうと思います。でもね、遠藤さん、あなたは相川良之介という人を愛し
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