。
伸子は、涙をおさえた悲しい顔をかしげて、しずかに櫛をうごかし自分の髪を梳いた。ほんとに、なんといっていいかわからない気がした。思いがけない、とか、本当にされない、とか云えるならばそれはいくらかうけた衝撃をまとまりやすい感動の言葉で表現できただろう。相川良之介の場合には、この作家の精神と肉体との危期が書くものにもにじみ出しはじめていることは、彼の芸術を理解するほとんどすべてのものが最近になって直感していた。鋭い稜角を常に示しつづける彼の知性の頂点と人間的な危期とは、最近この作家の作品とその風格の上に云うに云えない鬼気となって漂った。そして、それこそはこの作家の純芸術家としての光彩であるように目をみはられ、讃えられた。そのぎりぎりのところまでいって、とうとうこの作家は生きられなかった。生きられなかったのは、常識にたって、彼の死に驚愕し悲しみ、記者対談をやっている旧友の誰彼でもなければ、こうやって新聞をみて声をのんでいる伸子のようなものでもなく、人々から賞讚され、どっさりの追随者と模倣者とを身近にもっていた、作家そのひとである。
伸子は、刃のごく鈍い大きい桑切の庖丁のようなもので、か
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