う。多計代の感情のうちに、恋愛のこころから結婚をとおって、母となるおどろきとよろこびに目ざまされた母性のふっくりした展開はもたらされていない。それを、多計代として気づいたことがあるだろうか。それは、多計代が彼女なりに子供を愛していることとはまた別のことであった。息子たちに激しく求めている純潔も、思えば、多計代のうちにある、理想化された男性へのあこがれのてりかえしであると思える。
保の部屋の入口の鴨居にあるメディテーションという貼紙は思い出すたびに伸子の心を暗くし、同時に、保と対蹠《たいしょ》する存在として一家の中にある姉の自分を思わずにはいられなかった。多計代の女の心のかげをこうたどって来てみれば、母にとっても対比されるものとして存在する娘である自分を思わないではいられなかった。つよい生命力をもちながら、時代の境遇によって夫人、母という立場から動けない四十代の多計代のかたわらで、一人前の女となった若々しい伸子は、どういう風に生きて来たろう。少くとも伸子は、一人の人間としての女の熱中を傾けて、それをあからさまに主張し、佃とも恋愛し、結婚し、離婚して来た。
伸子は、思わずかけている籐椅
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