子は、きまりのわるい顔をした。
「ふざけるって……」
 名古屋で、ある人の招待をうけたとき、母の仕度がおくれて父が一人さきに宿の玄関を出た。そして靴をはきかけているところへ、母がうしろの階段から下りて来た。そして階段の中途から、多計代の来ていることに気づかなかった泰造が靴をはきながら、女中の肩に手をおいているのを見た。多計代は、そのまま部屋へ戻ってしまった。急に気分がわるくなったといって動かない多計代を、主人側に気の毒がった泰造がやっとなだめて出席させ、以後は、決してそういうことはしない、と誓約したというのである。
「とても私はそんな侮辱をうけてだまっちゃいられないよ。男ってどうしてああなんだろう。あんまり日本の女に見識がないから、男はこわいものなしでいい気になっているんだもの」
 多計代は、女性の威厳として、痛烈にそういった。そのとき伸子は、宿屋の女中とふざけて、と父についていう母の平気さを変に思った。酔っぱらいの大きらいな伸子は、そういう場合につかわれるふざける[#「ふざける」に傍点]という言葉を、酔っぱらいについたものとして感じ、それは父に似合わしくなく思えた。一方では宿屋の女中
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