ちつかなそうにしていたあげく、きっと何とか彼とか口実をみつけて友人たちのいるその部屋から出て行ったものだ。そういうことを、冗談まじりに、泰造の古い友人から伸子もきいていた。
 父と母とは、その後、しだいに変化し膨脹した経済条件につれて、いろいろな変りをその生活につけて来た。けれども、伸子が娘として父母のために、それを護りたく思う夫婦の醇朴さは失われきったといえないと思えるのであった。
「このことはね、お母様。お母様にとって、思っていらっしゃるよりも大変な危機なのかもしれないわ」
 伸子は、信頼のこもった、つっこんだいいかたをした。
「わたしには、賛成していいという根拠がわからないのよ、わかるでしょう? わたしは、越智という人を信用していないんだもの。――だから、どうぞお母様もよく考えてよ、ね。本当にお願いだわ」
 とられたままでいる多計代の手を、伸子ははげますようになでた。
「ね、お母様が、そう考えるようにおなりになったわけは、いくらかわかるわ。でもね……それゃお母様は、いざとなれば貧乏は平気だと思っていらっしゃるし、世間的な名誉なんか放り出せると思っていらっしゃるでしょう。それが、よ
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