子は見えない手で肩をおさえられたようにまた元の座蒲団の上に坐った。
不自然に話題をとばして、多計代は、親戚のある夫人が沢田正二郎に熱中していることを批評的に話しだした。
「ああいう心持なんか、話にはわからない……」
母がいいたいのはこのことではない。そう伸子は直感した。多計代は、まつ毛をしばたたいて、左手で半ば無意識に指環をうごかしていたが、全然前おきぬきで、
「ねえ伸ちゃん、私、越智さんと結婚しようかと思っているんだけれど、お前どう考えるかい」
といった。伸子は、真暗闇の中でいやというほどなにかにからだをぶつけながら、なににぶつかったのか瞬間には判断出来ない、あの心持になった。
「――けっこん?――結婚て……」
言葉の響とその意味とが目前のお召の短い丹前をきた母とどうしても結びつかなくて、伸子は苦しい顔になった。結婚という言葉は、それは伸子にしろ知っているし、どういうことかもわかっているわけだが、しかし――。母と、越智とのけっこん[#「けっこん」に傍点]――。伸子は、
「わからない」
せつなそうに多計代を見つめて頭をふった。母は五十二であった。越智圭一は、はっきりは知らなかっ
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