のところへ、寄附金を要求してゆくことが流行していることも知っていた。近年新しく小説をかき出している若い婦人作家がアナーキスト仲間の生活を描いている作品で、そういうことをよんだ覚えがあった。
「わたし出てみる」
 伸子が玄関へ出て行ってみると、たたきのところにとよのいったとおり三人の若い男たちが突立っていた。どのひとの髪もぼうぼうとのびっぱなしで、じじむさいのをてらいの一つにしている高校生のようにきたなかった。どのひとものどのところで丸くエリの立った茶色だの黒だののルバーシカを着て、よごれ古びたズボンに下駄や靴やまちまちの足もとである。一人は太いステッキをついていて、それが先頭に立っていた。
 伸子は、
「わたし、佐々伸子ですが――御用?」
 そうきいた。
 いく日も風呂に入らないでよごれたままの顔、おそらく、朝まともに顔も洗わないで出て来たらしい三つの青年の顔が、六つの眼を紫メリンスの前かけ姿でそこに現われた伸子の上にすえた。誰一人挨拶の頭を下げず、荒っぽそうに、いかつそうに粗暴であるが、その眼のなかや口のはたにおさえきれない若者らしさや好奇心が浮んでいる。こういう若いよごれ、手荒さは伸子の知らないものではなかった。二十三歳の美術学校生徒である弟の和一郎のあるときの表情に共通な、はにかみの裏がえされた傲慢がある。伸子は、自分の側からも好奇心をうごかされながら、
「どういう御用なのかしら」
ときいた。
「――紙をわたしたんだが……」
「紙は見たけれど――あなたたちにお会いするの、はじめてでしょう」
「…………」
「あなたがた、アナーキスト?」
 ステッキをついている黒ルバーシカの青年が、
「そうだ」
と短く力を入れて答えた。
「そういう人たちで、うちへ来た方はあなたがたがはじめてです……」
 伸子は、どこかで読んだいいかたを思い出し、
「りゃく[#「りゃく」に傍点]ということに来たの?」
ときいた。金を寄附させることを、アナーキスト仲間では掠奪という意味からか、リャクというということを思いおこしたのだった。
 よごれていることを自分たちの青春の示威と飾りにしているような三人の青年たちは、何となし、伸子のその言葉で動揺した。
「用は、わかっているじゃないですか」
 ステッキをついた一人が、挑戦的に顎をもたげた。
「それゃ、読んでるもの……」
 伸子は、
「でも、わたしには何だかよくわからないわ」
 紫メリンスの前かけをかけた膝を揃えて、式台から畳じきへ上る敷居に腰かけた。
「どうして、あなたたち、いきなりよそへ来てそういう要求をするの?……」
「そんなこと、はっきりしていると思うんだ。いまの社会は、俺たちが生きられるように出来てやしないじゃないか」
 それはそうであるけれども、それなら伸子自身どういう世の中に生きて来ているのだろう。伸子は作家として暮している。女一人を生かす義務や責任をちっとも感じていない世の中を貫いて、伸子はその働きで、自分を生かして来ているのではないだろうか。
「今の日本の社会がそうだから、青年は、こうしか生きる道がないという主張をもっていらっしゃるわけなの?」
「そうなんだ」
「――わたしには、やっぱりわかるようでわからない」
 伸子は、真面目に考えこんで、じっと三人の垢だらけの若い顔々を見守った。
「私たちの一生って長いでしょう。社会の不公平だって長くつづくんだと思うわ、どうせ。そうだとすれば、その日その日、そうやって人のところからお金をとって来て暮していたって……結局、どっちの問題も解決しないじゃないのかしら。――」
 ステッキをついている青年は黙って伸子をにらんだ。すると、ズボンとはちぐはぐな上衣をシャツの上から着ている一人が、
「面倒くせえなア」
と、乱暴に髪ののびた頭を掻いてからだをゆすぶった。
「わかっているんなら、つべこべいわずに出したらいいじゃないか」
 伸子は、さっと顔に血の色をのぼせた。
「あなたがた、自分たちをゆすり[#「ゆすり」に傍点]同然に扱っていいの? 乞食が来たと思えば、黙ってお金だけやるわよ。あなたがたは、それとは、違うでしょう。少くとも主義[#「主義」に傍点]というものがある以上、それについて、まともに話すということは、敬意なのよ。ゆするなら帰って下さい、ゆすられたりおどかされたりして出さなけれゃならないような金は、一銭だってわたしのところにはないんだから……」
 ステッキを持っているのが、
「まアそう怒り給うな」
と、すこし笑うような口元になった。しばらくどっちからも口をきかず、互いを眺めあった。しみじみと眺めているうちに、このぼうぼう頭をしながらルバーシカを着るような趣味をもっている若い人々が、本当に何か一貫した主義をもってこうして生きているのだと伸子にはだんだん思えない
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