った伸子のこころはソヴェトの未知の生活のなかで、どんなに震盪《しんとう》され、動いてゆくのだろう。伸子自身にもそれはわかっていないことだった。
藤堂駿平にいわれたとおり、なか一日をおいて、伸子と素子とはつれだってソヴェト大使館へ行った。門を入るとすぐ植ごみがあって、その左手の高みに小公園のような内庭があった。そこのベンチに、秋の午前の日光に白く見えるほどブロンドの髪をした若い女がかけて、よちよち歩きの幼児を遊ばせていた。ソヴェト大使館には警視庁の私服の刑事がはりこんで、出入りする日本人を見はっているという話があり、伸子と素子とは、漠然と緊張した気もちで、人影のない植ごみの横の事務所のベルを押した。戸が内側へあいて、若い、つやつやと光ったまるで真新しい麦わらのように新鮮な感じの館員が出て来た。用むきをきくと、一旦ひっこんで、伸子たちは構内にある文化聯絡協会の事務所へ行ってパルヴィン博士に会うように、ということだった。
二人は、植ごみをまわって、そのかげに一区画別棟になっている木造洋館の玄関へ行った。日本の女中らしい女がとりつぎに出て来て、伸子たちは、応接間にとおされた。やや古風でくすんだ壁紙のはられたその広間の中央に大形の円テーブルがあって、その上に、家庭的な展覧会というように、ソヴェトから刊行されている種々の雑誌、新聞、書籍が並べられている。その奥の、もっとうす暗い、どっさり額のかかった室から、背の高さも、腹の太さも見上げるばかり大男のパルヴィン博士が出て来た。腰をかがめ、小人にあいさつするように伸子たちに握手した。灰色の上にすこし黄がかってドロリとした大きな二つの眼が愛嬌の笑いを下まぶたのしわにまでたたえながら二人の女の上にすえられた。伸子はその眼をみると、頭のどこかがジーンとするような途方にくれた気がした。霜降りの背広をきて、話のあい間には、両方のひじをふりひろげるようにもみ手をまじえるパルヴィン博士に、主として素子が日本語で旅行についての計画を話した。パルヴィン博士は、ロシア語と日本語とちゃんぽんに話し、素子に向って、
「あなたのロシア語は正しいロシア語です」
と日本語でいった。
「あちらに行けば、発音はじき立派になりますです」
そして伸子をかえりみ、
「あなたは? ロシア語わかりますか?」
ちょっと、名刺の面を見て、
「サッサさん?」
といった。
「
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