ってことは、娘を信じないことなのに――」
多計代が、いいつのろうとする機先を制して泰造が、
「いいじゃないか、多計代。よろこんでやって、いいじゃないか」
といった。
「あんな小さい赤ん坊だった伸子が、こうやって一人で外国へまで行くようになったんだ」
多計代は、その言葉で感傷を動かされ、しばらく黙った。
「それゃ、わたしだって、よろこんでいるんですよ。それにしてもね」
「吉見、だろう。そう拘泥するもんじゃありません。お前だって伸子一人遠くへやるより、ああやって一緒のひとがいる方が、どんなに安心だかしれないじゃないか」
「…………」
多計代の釈然としない理由は、伸子によくわかった。多計代の心には、この旅行についても素子が伸子をどこかで利用しているにちがいない、と思いこんでいるのだ。
伸子のために、便宜があればそれにこしたことはないが、吉見素子がそれにあやかることは不本意だが、大目にみておくという表情を、ありありと顔にうかべている多計代に玄関まで送られて、翌日伸子は父と藤堂駿平の邸へ出かけた。
麻布の天文台のそばで門の石塀のそこまで葉を落した桜の枝がさし出ている。三人の取りつぎがどれも男ばかりの案内で、応接間にとおされた。近代風の洋式客間で、明快な色調の広い部屋だのに、一方の壁に床の間めいた高いところがこしらえてあって、そこに日本画のかけものと、紫檀の板の上に香炉がおかれている。伸子は、政治家というものの客間を珍しく見まわした。じき、
「やあ」
といって、和服姿にスリッパをはいた藤堂駿平が現れた。
「ようこそ」
はじめて会う伸子に会釈した。有名な鼻眼鏡の黒リボンと、くさび形のあご髯の間から見えている藤堂駿平の皮膚は白くて、濶達な身ごなしだった。
泰造が、全く友人同士のようでありながら、どこか微妙なニュアンスで自分との間に差別をおいている話しかたで用件を説明した。
「ほう。なるほど。――それぐらいは、むずかしいことでもなさそうだ。ようござんす」
藤堂駿平はわきにあるベルをおした。伸子たちをとりついだ少年が来た。
「今井君にちょっと」
秘書の一人らしい黒い背広の男が入って来て、丁寧に礼をしながら、そこにかけている泰造と伸子との方をひとわたり見、いそがず藤堂駿平のそばへよって行った。
「このお嬢さんが、お友達と二人でソヴェトへ行かれるんだそうだ。それについて
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