外出のなりのまま素子は、タバコをふかしていたが、
「ぶこちゃん、散歩に行こう!」
さきに立って玄関へおりた。
伸子は紫メリンスの前かけをかけたままついて出た。門から右手へつづいているだらだら坂をのぼりきって、この郊外の分譲地の中央通りにあたる桜の並木道を、左へとった。高い外壁に蔦のからんだ洋館だの、しゃれた鉄のすかし格子の見える上り口の様子だのを眺めながら、秋めいた午後三時の透明な光線に梳かれている桜並木をぬけた。並木を出はずれると、もう畑で、からりとした秋日にてらされて、ゆるやかな起伏をもった耕地や、遠く近くところどころに点在する雑木林がひろびろとあらわれた。伸子と素子とは畑の間の草道を、浅い雑木林のある方へと向った。大根畑があり、唐辛子が色づきかけており、大気の中には草木のみのる香りと午後の日光にあたためられた強壮な下肥えのにおいが漂っている。草道へ出ると、伸子は歩きながら秋の野草の花をつんだ。太い赤まんまの花や紫苑《しおん》のような紫の野菊を。そうやってつまれるこまかい野の花々は伸子のこころを鎮め、広い地平線の眺めは伸子の目路《めじ》をはるかにした。伸子は、だんだん、気分が落ちつき、そして、うれしくなって来た。うれしさが、はっきりして来た。花をつむために、数歩おくれていた伸子は、かけるように素子に追いついた。そして、
「なんだかうれしくなってきた」
と告げた。小声でそう云ったら、一時に、どっとそのうれしさが呼び出され、こみ上げて来たようで、伸子は活溌な勢のいい足どりになった。うたが歌いたくなった。本当に、行ける! 行く。――その思いは、遠くに森の見える地平線や、高い空で白く光っている雲にまで響くようで、伸子は、
「ね、ね」
と素子の手をひっぱった。素子と伸子とは、うれしさが明瞭になるにつれ、元気が出て、大股にどんどんと畑の間の道を歩きまわった。一つの丘の裾をめぐって下り、小さい川に、かけられた丸木橋をわたった。そのまましばらく行くと灌木のしげったかげに木の柵のある農家の横へ出た。そこはいつか、竹村の温室をみにゆくとき通った鵞鳥のいる農家だった。
「あら、こんなところへ出てよ!」
面白そうに伸子が立ちどまった。きょうは、どうしたのか鵞鳥はいず、柵の上にまたがって二三人の男の子が遊んでいた。草道を足音もしないで来て急に灌木のかげから現れた二人の女たちを見つめ
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