事がすんでから、そのひとが、帽子に手をかけて、
「じゃあ、またいずれ。また北海道へゆくときでも通りがかったら、しらして下さい。おかげで愉快だった」
といってわかれて行ってから、はっきりと理解したのであった。
伸子は、素子からそういう話をきいた。
「北海道って――どうして? そのとき行ったの?」
「まさか仙台へだけ来たなんていえやしないじゃないか」
素子は、真面目にいった。
「それからどうしたの、いま、そのひとどこにいるのかしら……」
「九州の方に赴任したらしい、ハガキが来たっけ」
「――九州へは行ってみない?」
赤いパイプをかんでいたが、素子は、
「もう結婚しちまっているさ」
全然、自分に関係のなくなった状態として、そういった。
その伊豆の夏休みの集団生活のとき、上級生で一緒にいた小川豊助が、こんど素子の仕事が一段落ついた慰労に招いてくれた。
「ぶこちゃん、いつがいい?」
「さあ、わたし、あんまりよくしらないし……」
小川豊助が「オブローモフ」を訳していて、それは伸子もよんでいた。素子は、小川豊助が湯島天神の境内の小料理やの女といきさつをおこしたとき、豊助にかわって、話をつけに行ってやったりした間柄であった。
「一人でいったら?」
伸子は、何となしおっくうだった。伸子が小説をかいたりするせいもあって、友達となるのは大抵の場合その家の主人であり、そこの細君のこころもちに向ってくばられる神経が伸子として、多くの場合二重の負担だった。主人であるひとと話がはずめばはずむほど、伸子は細君にたいして愛想よくなくてはならない自分を感じた。そして、細君との話題は、主人であるひととの話題とはまるでちがった内容で、素子のように「男のような方」と思われていない伸子はそれが重荷なのであった。現実には、素子の方が、食物のことだの、着物のことだのを遙かにくわしく知っているのに――。
「ぶこちゃんも行くっていってやるよ、いいね、十日に――」
ハガキをかきながら素子は、
「ぶこちゃんのひっこみ思案は、謙遜からじゃなくて、傲慢からさ」
といった。
「だからどしどし、ひっぱりだしてやるんだ」
約束した日の午後、素子と伸子とは一旦新宿でおりて、小川豊助のところへもってゆく手みやげを買った。
「タバコにしよう」
素子が新宿駅のプラットフォームを歩きながらきめた。
「自分じゃなかなか気ば
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