二つの場合
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)[#地付き]〔一九三四年十一月〕
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 先頃、山川氏の『朱実作品集』を、いろいろの点から興味ふかく読んだ。それと前後して窪川いね子の作品集『牡丹のある家』を読んでいたのであったが、私は、全く内容の種類を異にしたこの二つの作品集から、計らずも一つの共通した印象を与えられた。それは『朱実作品集』の中にも、『牡丹のある家』にも、もしそれ等がまとまった一つの中篇或は長篇として扱われていたら、芸術品として更に強い効果を示したであろうと思われる連作的短篇があったことである。
『朱実作品集』の十二の短篇は「久米子の一日」「寒い夜」「留吉」などを一応どけたあとのものは、どれも一人の女主人公を中心として描かれるべき長篇の部分部分であると思われた。『牡丹のある家』において「小幹部」「幹部女工の涙」「何を為すべきか」の三篇が一貫して長篇に書かれていたならば、私達は、紡績産業組合における日本では代表的な労働貴族としての女工のタイプと大衆としての女工の階級性とを、もっとはっきりと
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