場所から、わたしは籐でこしらえた妙な坐椅子のようなものを見つけだして来た。
寝床の上へその坐椅子を置き、しびれて曲りにくい脚をなげ出し、わたしは何通もの手紙を書いた。
二十になる妹がそのわきに長くころがって手紙を書いているわたしの様子を眺め、
「お姉さま、よくそうやってかけるわね」
と云った。わたしは昔のひとがやるように巻紙を片手にもち、筆のさきをもって手紙を書いているのであった。書きながら上の空でわたしは、
「うむ」
と云い、やや暫く間をおいて、
「おかあさまにおそわったんだよ」
と、筆に墨をふくませつつ妹の顔は見ず云った。
「ふーん」
顎を振るようにしておかっぱの髪をパラリとさばき、黙っていたが、やがてころりと仰向きになって、
「――何だか気ぬけがしちゃった」
と、弱々しい、しなやかな余韻のある声で云った。
わたしは黙っている。自分はどの手紙にも、母が今生涯を終ったことは、母にとって最もよい終焉であったと書き、その手紙にもそのことを大きい疑いをもたぬ字でかいているのであった。
母が父の存命中、生涯を終ったことは、母にとって、一家にとって、一つの幸福であると云う考えは、明瞭
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