いので、何だか落つかないいやな空合を窓からぼんやりながめて居ると、今仕かけて居る仕事のはかどらない歯がゆさにむずむずして来る。
この八月中に下書きだけでも出来上らせて仕舞わなければならないと思って居るのに一向に筆が進まない。
考ばかり美くしく生れて来ても、手の方で甘く行って来ないのを思うと、私の頭が如何にも空虚な様で悲しくなる。
毎日毎日の真面目な努力も、、何の甲斐のない様に感じられて、こんなで居て、まとまったものを出版したいなどと云うのは、あまり思いあがりすぎて居るのではあるまいかと云う様になって仕舞う。
此頃の様に、或る一つ事に対しての興味が、単に趣味と云うより以上のものに進んで来ると、その間に、又一歩進んだ嬉しさと、苦痛がある。
それが幸福でもあり不幸でもある。
私共の周囲の多くの人々の様に只生きてのみ居る事は、到底私に堪え得ないのを思えば、その瞬間毎に変化する複雑な悲哀と、歓喜を持つ事が快くもある。
モーンフル、メモリーとでも呼びたい様な、重い沈んだ気持で、陰の多い部屋に静座して居るのも、顔の熱くなる様な興奮に身をまかせて、自分の眼に写るすべての物を、美くしく、快
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