ざらにあるまいと思うように描かれている。「やはり自分は働こう、働けるだけ働いて自分の技術をたかめよう。経済的にもそうしなければならなかったし、自分が働くことでこの赤ン坊が不幸とは思えまい。そしてそれが、自分を女という古い掟で縛りつけ圧服してしまおうとする凡ゆる古い力に対抗し得るたった一つの道だと思った」女としての感情がここへ来るにはアサが単にお下髪《さげ》の使い屋から苦労してたたき込んだ腕をもっているというだけが理由ではない生活感情、社会的な感情が土台となって初めて可能なものではないだろうか。作者は姑との軋轢に苦しむアサ夫婦の心持を、旧套の力がのしかかる大さの感覚でうけて観ており、後半では作者自身の理想に立ってアサの成長を描いているようにも思える。アサが、誰にも負けるもんか、負けるものかと思っている、そういう前半の自然発生な女の勝気から、後半の、良人の古い半面にもめげず、自分の技術を高めようとすればあらゆる種類の仕事に従う現代の働く女が誰しも感じる働く女としての孤独感に到る心の過程、そのような勤労婦人としての成長をもたらしたモメントは、アサの生活のどこにあったのだろうか。前半から後半へ
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