。素子は、
「ぶこちゃんは、そんなに、こせこせしなくっていいんだよ」
と云った。
「ぶこちゃんみたいな人間は、今のまんまで結構なのさ。あるいたり、見たり聞いたりしてりゃいいのさ。――いずれはどうせ読めるようになるんじゃないか」
読めないなりに、伸子はデイリー・モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]のほかに、記事のかきかたのやさしいコムソモーリスカヤ・プラウダを外出のたびに買って来て見るのだった。
朝から夜まで素子と伸子とが、一緒に行動したのは、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ着いて、ほんの五日か一週間ぐらいのことであった。素子は、二人で芝居を観に出かける夜の時間をのぞいて、毎日の規則正しい勉強の計画をこしらえた。マリア・グレゴーリエヴナのところでプーシュキンを読むほかに、素子は一人の女教師に来て貰って、発音と文法だけの勉強もはじめた。
言語学を専攻したというその女教師が、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]河のむこうからホテルへ教えに来るのは、芝居に行かない月曜日の、正餐後の時刻であった。
その晩、教師が来たとき、伸子は、その前のときのように、素子が
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