−7−82]芸術座の通りを歩いていたら、そこに幾軒も婦人帽を売る店があった。その一軒で伸子は、金色の簡単な飾金のついた褐色小帽子に目をとめたのであった。
伸子と素子とは、その店へ入って行った。そして、ショウ・ウィンドウに出ていたその帽子を見せて貰った。それは伸子の気に入ったけれども、かぶってみるとあわなかった。髪が邪魔した。伸子は、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の婦人たちが、だれもかれもきりっと小さい帽子をかぶっているのは、彼女たちが断髪だったからだとはじめて気がついたのだった。
その褐色帽子を手にとったまますこし考えていた伸子は、ひどく自然な調子で、
「わたし、きるわ」
と云った。
「きる?――いいのかい?」
そういう素子は、ハルビンで断髪になっているのであった。
「ほんとに、きっちゃうわ――いいでしょう?」
「そりゃ、いいもわるいもないけれど」
「じゃ、そう云って頂戴。――どうせ、ちゃんときり直さなけりゃならないんだろうけれど……」
こういういきさつで断髪になった頭に褐色帽子がおさまることになった。伸子は新聞読みに没頭しはじめた素子をデスクの前にのこして、ホテ
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