フももちながら、吉之助のようにはっきりそれを肯定しながらもその一方で新しいものを求めているのが真実だった。そこに矛盾があるということで新しい道を求める思いの真実性が否定されなければならないということはないのだ。伸子は、そういうごたごたのなかでひとすじの思いを推してゆく人間の生きかたを思い、悲しい気がした。保を思い出して。保には、こうやって矛盾や撞着の中から芽立ち伸びてゆく休みない人生の発展がわからなかったのだ。そして相川良之介にも。相川良之介の聰明さは、半分泥の中にうずまりながら泥からぬけ出した上半身で自分にも理性を求めてもがく人間の精神の野性がかけていた。
 伸子はその質問に自分の文学上の疑問もこめた心で、
「吉之助さんのような人でも、新劇へうつるということはできないものなのかしら」
とたずねた。
「気分では、いっそひと思いにそうしたら、さぞサバサバするだろうって気がします。しかしどうでしょう」
「歌舞伎のひとは、子役からだからねえ」
 身についた演技の伝統のふかさをはかるように素子が云った。
「あなただって、そうなんでしょう」
「初舞台が六つのときでしたから」
 吉之助は考えぶかい
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