[でした」
「どこです?」
「この廊下のつき当りの左の小さい室です」
「ああ、じゃあ一番はじめわたしたちがいた室だ。ね、ぶこちゃん」
 それは雪の夜アーク燈にてらされて中央郵便局の工事場が見えた部屋だった。
 ベルリンへ行くということが、むしろ一行のあとにのこって自由行動をとるための一つのきっかけであったように、吉之助は一人になってベルリンからモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ戻って来た。そして、外国人はめったにとまらない、やすいパッサージ・ホテルにとまった。
 秋山宇一や内海厚が同じパッサージに泊っていた時分、伸子も素子もモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]生活に馴れなかったこともあって、気やすくその人たちの部屋をたずねた。こんど吉之助の部屋が同じ廊下ならびになったが、伸子も素子も吉之助の室へは出かけなかった。吉之助がちやほやされつけている若い俳優であるということは伸子たちに理由もなく彼の部屋を訪ねたりすることに気をかねさせた。それにレーニングラードのジプシー料理屋のスタンドのかげで素子の吉之助に対する好意がわかっているものだから、なお更彼の部屋へ訪ねかねた。二三
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