ネかなかいいね」
と伸子に云ったことがあった。それは、レーニングラードのジプシーの音楽をききながら食事をする店でのことで、素子と伸子とはスタンドのついた小卓にさし向い、素子はグルジア産の白い葡萄《ぶどう》酒をのんでいた。吉之助、なかなか、いいねと素子が云ったとき、伸子は素子の眼や頬がいつもとちがった艷《つや》やかさをたたえているのを感じた。
「そう思う?」
のまない葡萄酒のコップをいじりながら、伸子は、ききかえした。
「――ぶこちゃんだってそう思うだろう?」
素子が、俳優としての吉之助だけを云っているのでないことを伸子は女の感覚で直感した。軽いショックで伸子は上気した。素子がいいと思う男がいたということは思いがけない一つのおどろきであった。そして、それが伸子も好感をもっている長原吉之助だということは。しかし、その長原吉之助だから素子がすきというのもわかるところがあるのでもあった。素子の珍しいその心持のうごきを、伸子は自分の手もそえて、こぼすまいとするような気持で、だまってスタンドの灯に輝く琥珀《こはく》色の葡萄酒を見ていた。でも、吉之助に対する素子のそのこころもちは、どう発展するも
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