A無意識な手つきでからのパイプを口に咥《くわ》えた。伸子は、窓の前をゆっくり行ったり来たりしはじめた。窓からは、広く暗いネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の面を越して対岸の街燈が淋しくまばらに見えている。
「立派な、人間らしい人たちの中に、それぞれの完全な性があるのは美しいことだわねえ」
素子の方へ背をむけて歩いていた伸子は、あこがれに小波だっているような調子でそう云ったとき、きいている素子がさっと上気したのを知らなかった。
「わたしも、ああいう風に咲き揃ってみたいと思うわ。――あの人たちのように……何て人間らしいんでしょう。咲きそろうって……」
でも、と伸子はすぐつづけて考えた。自分には、自分を咲き揃わせるどんな方法が現実にあるだろう。誰の真似でもなく、間に合わせでもなく、この自分が咲き揃うために。――ゴーリキイやアンナ・シーモヴァが生きて来て、自身を咲き揃わせた道は、それが心を魅する内容をもっていればいるほどその人たち固有のもので、伸子にそのままくりかえせるものでも、真似するすき間のあるものでもなかった。いつかまた窓ぎわに戻って、目に映るものをほんとには見ていない視線を、
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