い芝居をするのだという希望と誇りに燃えていて、寒いことも苦にしませんでした。そうかいていたのはチェホフの妻であったオリガ・クニッペルだった。「チャイカ」は|М《ム》・|Х《ハ》・|Т《ト》の芸術的生命と切ってもきりはなせない旗じるしであった。
 こんなに科白《せりふ》のわからない芝居が、こんなに面白いという事実に伸子はびっくりした。『装甲列車』は伸子が前に読んでいたためにわかりよかったばかりでなく、練習をつみ、統一され、一人一人がちゃんとした俳優である芸術座の俳優たちは、実に演劇的な効果をもって一幕一幕とこの革命当時、国内戦にたたかった農民パルチザンの英雄的行動を描き出して行った。カチャーロフが扮した主人公エルシーニンが、第一幕では、全く農民の群集のうちにまぎれこんでいて、どこにいるかさえわからない存在であったのが、幕の進むにつれ、その地方の農民の革命的な抗争が緊迫するにつれ、彼のほんの小さい一つの行動、わずかの積極性の堆積から、次第に、そのパルチザン集団の指導者として成長して来る。『装甲列車』は、はじめっから一定の役割を負わされた劇の主人公というものはない芝居だった。一定の事件や行動
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