フ中で破局に導かれる人物だった。
「そうともちがうんじゃない?」
伸子は、その本の美しい小花の木版刷のついたケースをいじりながら云った。
「『インガ』みたいな芝居でも、夫にとりのこされた女は自分で自分を伸してゆく余力をもっているし、またそれが可能な条件を社会生活の中でもっているんだもの……」
伸子のその小説に描き出されているような娘の生活に対する親の執拗な干渉ということ一つとってみても、それはもうソヴェトの社会の習慣と感情のなかからはなくされている事実だった。モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]のメーデイの行進の轟きの上に、象徴的に大きくされた赤インクのかぎ[#「かぎ」に傍点]を見たのが、日本の女であり、娘である伸子ばかりであったように。しかも、それは、伸子を愛していると自分でかたく信じている父の手によってひかれている赤インクのかぎ[#「かぎ」に傍点]を。――
前後して、保から久しぶりにたよりが来た。またハガキだった。温室は好調でメロンが育ちつつあるということや、僕もそろそろ大学の入学準備で、科の選定をしなければならない。姉さんはどう思いますか、僕は大体哲学か倫理にしよう
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