Nで頭をつつんだ娘をのせた耕作用トラクターが、劇場の方からビラを撒《ま》き撒きやって来た。伸子たちは、やっとそこを抜けてトゥウェルスカヤの通りの鋪道へわたった。赤いプラカートの張りわたされているここも一杯の人出で、空気はもまれ火照《ほて》っている。
「ぶこちゃん、ちょっとパッサージへよってお茶をのんで行こうよ」
素子がそう云って秋山に、
「パッサージ、やっていますか」
ときいた。
「さあ――どうでしょう――やっているでしょう」
「やってます、やってます」
内海厚が、わきから早口に答えた。
伸子たちは、靴を埃だらけにして、アストージェンカへ帰って来た。朝のうちは、電車のとまった通りを赤い広場の方へゆく人かげはまばらだったのに、帰り途は、同じ大通りが、赤い広場から家へ歩いてかえる群集で混雑していた。赤い紙の小さい旗をもったり、口笛をふいたりしながら、みんなが歩きつかれたメーデイ気分でゆっくり歩いている。
「くたびれた!」
部屋へ入ると、すぐ窓をあけて伸子がディヴァンへ身をなげかけた。
「立ってるのはこたえるもんさ」
美味《おい》しそうに素子がタバコを吸いはじめた。
いつもなら
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