オ誇張した抑揚のちっともない、語尾の明晰なメーデイの挨拶の言葉が流れて来た。演壇の上が見られない伸子は気をもんで、かたわらの素子に、
「いま話しているの、スターリン? そう?」
ときいた。
「そうなんだろう、わたしにだって見えやしないよ」
 声にひかされるように、伸子は、見えない演壇の方へ爪先立った。伸子は、日本の共産党検挙の記事や、その記事に父のペンでかけられていた赤インクのかぎ[#「かぎ」に傍点]のことを忘れた。
 スターリンの声と思われた演説が終ったとき、広場をゆるがし、その周囲にある建物の壁をゆすってソヴェト政権とメーデイのためにウラーが叫ばれた。ブジョンヌイは、その間じゅう白馬に騎って、演壇の下に、赤軍の大集団に面して立っていた。
 やがて、拡声機から行進曲が流れ出して、赤軍が動きはじめた。歩兵の大部隊がゆき、騎兵の一隊が、隊伍に加った大髭のブジョンヌイを先頭に立てて去り、機械化部隊が進行して行った。つづいて労働者の行進が広場へ入って来た。
 まちまちの服装で、ズック靴をはいて、プラカートをかかげた人々の密集した行進が来るのを見たとき、伸子の眼のなかにさっと涙が湧いた。この人
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