ハに亙って、五色温泉で秘密の会合をした仮名の人々のことだの、大学教授や大学生がどっさり関係していること、内相談、文相談と、いかにも陰謀の一端を洩《もら》すという風につかみどころなく、しかも動顛のおおえない調子で報道されていた。動坂の家からモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]にいる伸子あてに送ってよこした朝日新聞の四月十一日のその記事の大見出しのところには、赤インクで長いかぎ[#「かぎ」に傍点]がついていた。銀行ペンに濃い赤インクをつけて、大きく、長く、抑揚のある線でかけられたかぎ[#「かぎ」に傍点]は、まぎれもない父の泰造の手蹟であった。
 三月十五日の記事にかけられている赤インクのかぎ[#「かぎ」に傍点]を見たとき、伸子は、いやな刺戟を感じた。記事そのものが漠然としている上に、そういう運動を知らない伸子には、全国的検挙という事実さえ、実感に迫って来なかった。共産党という字が、いたるところで目にふれるモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]では政治について知らない伸子も、世界の国々に資本家の代表政党があるからには、勤労階級の共産党があるのは当然と思うようになっていた。泰造の
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