れた経木の大幅リボンが園遊会の柱のようにまきついて、みどりのちりめん紙でくるんだ鉢のところで大きい蝶結びになっている。白いザラ紙のテーブル・クローズ、粗末なナイフ、フォーク、そしてこの花の鉢。ロシアというところが、その大国の一方の端でどんなに蒙古にくっついた国であるかということを、伸子はつきない感興で感じた。
 うしろまでまわるような白い大前かけをかけ、余りきれいでないナプキンを腕にかけた給仕が、皆の前へきつい脂のういた美味《うま》そうなボルシチをくばった。献立《こんだて》はひといろで、海老色のシャツにネクタイをつけ、栗色の髪と髭とを特別念入りに鏝でまき上げているその給仕は、給仕する小指に指環をはめている。
 犢肉《こうしにく》のカツレツをたべながら伸子が思い出したように、
「正餐《アベード》では可笑しいことがあったわね――話してもいい?」
 素子をかえりみた。
「なにさ」
「わたしたちがハルビンへついたとき、もうロシア暮しに馴れるんだというわけで、『|黄金の角《ゾロトーイ・ローク》』へとまったんです。あすこは日本語も英語も通じないのね。おひるになったんで御飯たべようとすると、いまはま
前へ 次へ
全1745ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング