フおとなしく地味な人たちの素直な心に通じた心でもない。その刹那伸子は、また一つの写真を思い出した。ニキーチナ夫人ととった写真だった。その写真で伸子は真面目に自分の表情でレンズの方を見ながら、手ばかりは写真師に云われたとおり、一方の手を真珠の小さいネックレースに一寸かけ、一方の腕はニキーチナ夫人の肩のところから見える長椅子の背にかけて、両方の手がすっかりうつるようなポーズでとられているのを思い出した。その髯の濃い写真師は、伸子の手がふっくりしていて美しいと云い、ぜひそれを写したいと、伸子にそういうポーズをさせたのだった。ドイツ風というか、ソヴェト風というのか、濃く重い効果で仕上げられたその写真をみたとき、伸子は、ちらりときまりわるかった。幾分てれて、伸子はその写真をとどけて来てくれた内海厚に、
「みんな気取ってしまったわねえ」
と笑った。そこにうつっている秋山宇一も内海厚も素子も、みんなそれぞれに気取って、写真師に云われたとおりになっていることは事実だった。けれども、伸子のポーズでは、伸子の額のひろい顔だちの東洋風な重さや、内面から反映している圧力感とくらべて、平俗なおしゃれな手の置きか
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