サの下の通行人の姿はいつもよりも小さく、黒く、遠く見えた。
 二月も半ばをすぎると、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の厳冬《マローズ》がこうしてどこからともなく春にむかってとけはじめた。凍りつめて一面の白だった冬の季節が春を感じて、或る夕方の霧となって立ちのぼったり、ある朝は氷華となって枝々にとまったりしはじめると、北方の国の人を情熱的にする自然の諧調が伸子たちの情感にもしみわたった。伸子と素子とは、そのころになって一週間のうちの幾日も、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]市のあっちの町、こっちの横丁を歩きはじめた。二人は、貸室さがしをはじめたのだった。ホテル暮しも足かけ三ヵ月つづくと単調が感じられて来た。もっとじかに、ごたごた煮立っているモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]生活の底までふれて行きたかった。そのためには素人の家庭に部屋を見つけるしかなかった。
 マリア・グレゴーリエヴナに世話をたのんで、はじめて三人で見に行った家は市の中央からバスで大分郊外に出た場所にあった。バスの停留場から更に淋しい疎林のある雪道を二十分も行った空地の一方の端に、ロシア式丸
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