ェきれそうになるまで、いたずら書きのグリグリを真黒くぬりつぶした。ああいう人たちは或る意味で卑屈だ。伸子は、ポリニャークやケンペルのことを考えて、そう思った。彼等はプロレタリアにこびる心を働かせずにはいられないのだ。伸子はもとより女の労働者ではない。だが、伸子が女の労働者でない、ということは、伸子がポリニャークやケンペルに対して、ソヴェトの働く人々に対して卑屈でなければならないということではない。伸子がモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ来てから、労働者階級の人たちや、その人たちのもっているいろんな組織は、伸子を無視していた。伸子の方から近づいてゆかなければ、その人たちの方から伸子を必要とはしていない。それは全く当然だ、と伸子は思った。伸子はモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の生活でどっさりあたらしい生活感覚を吸いとっているのに、伸子のなかには、ここの人にとって学ぶべき新しいものはないのだから。珍しさはあるとしても。また漠然とした親愛感はあるにしろ。――無視されている、ということと、自分を卑屈の徒党のなかにおく、ということとははっきり別なことではないだろうか。――
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