jコライ・クランゲル――ソヴ・キノの監督――日本からのお客さまがたよ」
と伸子たちを紹介した。
「こちらは」
と素子をチェホフの翻訳家として、
「そちらは、作家」
と伸子を紹介した。
「お目にかかってうれしいです」
 クランゲルは、握手をしない頭だけの挨拶をして、グットネルがこの部屋へ入って来たときしていたように、入口のドアに背をもたせて佇んだ。くすんだ鼠色のズボンのポケットへ片手をつっこんで。――
 伸子たちにききわけられない簡単な夫婦らしい言葉のやりとりでヴェラはニコライに、二言三言なにかの様子をきいた。
「そう、それはよかったこと……」
 ヴェラは、ちょっと言葉を途切らせたが、
「ねえ、あなたはどう思うこと?」
 ほとんど彼女の正面にドアによっかかって立っているニコライを仰ぎみるようにして云った。
「この方々は、わたしの書くものがむずかしいっておっしゃるんです」
 じっと、ニコライの顔をみつめて、ヴェラは云っている。伸子は、そのヴェラの、妻として訴え甘えている態度をおもしろく感じた。モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]というところでは、何だかこんな婦人作家の表情を予期しな
前へ 次へ
全1745ページ中215ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング