ネさい」
と、秋山を夫人の右手に、伸子を自分の右手に腰かけさせた。そして、早速、
「外からこごえて入って来たときは、何よりもさきに先ずこれを一杯! 悧巧も馬鹿もそれからのこと」
 そう云って、テーブルの上に出されているウォツカをみんなの前の杯についだ。
「お互の健康を祝して」
 素子も、杯のふちを唇にあてて投げこむような勢のいいウォツカののみかたで、半分ほどあけた。伸子は、夫人に向って杯をあげ、
「あなたの御健康を!」
と云い、ほんのちょっと酒に唇をふれただけでそれを下においた。
「ナゼデス? サッサさん。ダメ! ダメ!」
 ポリニャークは、伸子が杯をあけないのを見とがめた。
「内海さん、彼女に云って下さい」
 よその家へ来て、最初の一杯もあけないのは、ロシアの礼儀では、信じられない無礼だというのだった。
「わかりましたか? サッサさん、ドゾ!」
 伸子は、こまった。
「内海さん、よく説明して頂戴よ。わたしは生れつきほんとにお酒がのめないたちなんだからって――でも、十分陽気にはなれますから安心して下さいって……」
 内海がそれをつたえると、ポリニャークは、
「残念なことだ」
 ほんとに
前へ 次へ
全1745ページ中186ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング