う、お父様のおっしゃることは。大方そちらでは今頃、たくあんをかじっていることだろう、お気の毒さま、だとさ! よくも仰言れる!」その文句をかいてあったのは一枚のエハガキだった。稚い伸子に、その献立の内容はわからなかったけれども、父の方には何かそういう大した賑やかな御馳走があり、自分たちはたくあんをかじっているのだというちがいは、子供心に奇妙に鮮明に刻まれた。伸子は、いまでも、小さな娘を前において、ひな鳥のむし焼、とよみ上げたときの多計代の激昂と涙にふるえる声を思い出すことが出来た。それが思い出されるときには、きまってその頃母と小さい三人の子供らがよくたべていたあまい匂いのする藷《いも》がゆを思い出した。こってりと煮られた藷がゆは、子供があつがるのと、台所にいる人たちもそれをたべるのとで、釜からわけて水色の大きい角鉢に盛られて、チャブ台に出た。その角鉢には、破れ瓦に雀がとまっている模様がついていた。
 ずっと伸子が成長してからも、そのハガキの文句のことで、父と母とが諍っていたのを覚えていた。泰造は、ほんとにみんなが気の毒だと思ってそれを書いた、と弁明した。その時代の伸子は、母のあのときの
前へ 次へ
全1745ページ中174ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング