Aこまかくよむにつれてはりあいのないような、くいちがっているようなきもちになった。そのよせがきには動坂の人たちが、食堂の大テーブルを囲んでがやがやいいながらてんでに喋っているその場の感じがそのまま映っているようだった。その和一郎にしろ、先月、伸子がきいたオペラについてモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の劇場広場のエハガキを書いてやったことにはふれていないで、今年は美術学校も卒業で卒業制作だけを出せばいいから目下のところ大いに浩然の気を養ってます、と語っている。泰造はいそがしさにまぎれてだろう、伸子が特に父あてにおくったトレチャコフ美術館の三枚つづきのエハガキについて全く忘れている。
多計代の文章の冒頭にだけ、この間は面白いエハガキを心にかけてどうもありがとう。一同大よろこびで拝見しました、とあった。けれども、それはいつ伸子が書いたどんなエハガキのことなのか、そして、どう面白かったのか、それはかいてなかった。膝の上にいまこの手紙をひろげている伸子が、もし、それはどのエハガキのことなの? ときくことが出来たとしたら、多計代はきっとあのつややかな睫毛をしばたたいて、ちょっとばつの
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