りながら、
「まあ、おかけなさい」
格別自分のかけている椅子をどこうともしないで云った。三人はだまっていた。すると、比田がその男に、
「――飯山に会われましたか」
ときいた。
「いいや」
「あなたをさがしていましたよ」
「ふうむ」
なにか思いあたる節があるらしく、その男は比田から火をもらったパイプをくわえると、大股に広間の方へ去った。
「何の商売かしら――あのかた……」
そのうしろ姿を目送しながら伸子がひとりごとのように云った。
「軍人さん、ですよ」
やっぱりその肩のいかつい男のうしろ姿を見守ったまま、伸子の視線は、スーと絞りを狭めたようになった。秋山宇一が、われわれは、こまかく見られている[#「こまかく見られている」に傍点]、と云った、そのこまかい[#「こまかい」に傍点]目は、こういう一行のなかにもまぎれこんでいるのだろうか。
伸子は、やがてかえり仕度をしながら、
「ここよりベルリンの方がよくて?」
と比田礼二にきいた。
「さあ、ここより、と云えるかどうかしらないが、ベルリンも相当なところですよ、このごろは。――ナチスの動きが微妙ですからね。――いろいろ面白いですよ。ベルリ
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