骰・礼ではないらしかった。和一郎や小枝としては、二人が結婚するということだけをがんばったつもりにちがいなかった。けれどもその要求は、多計代がどうしても外国旅行をしようと決心したについての老巧な計画性と、微妙にからみ合わされ、若い二人にとっては、ひとぎきだけ華やかな海外への新婚旅行として、まとめあげられてしまった形だった。
和一郎は、憤懣にたえない若い男の口元の表情で、むきだしにそのいきさつを姉に説明した。
「小枝を小間使いにするためだってことがはじめっからわかれば、僕、決して、あのとき結婚するなんて云い出しゃしなかったんだ。のばして平気だったんだ――その点、僕、小枝にほんとにすまないことをしたと思っている」
ホテルの小部屋で、寝台に並んでかけて話している和一郎のわきで、彼がそういうのをきくと小枝はさっと顔をあからめて涙ぐんだ。そして、何か云おうとしたが、やめた。
結婚式についても、いずれ外国から帰ってのち改めて、ということで至極手軽にすまされたし、花嫁の結婚支度も、双方の親の話しあいで予算の三分の二はこんどの旅行の費用として、現金で泰造にわたされたということだった。
「――それで、それだけのお金は、あなたがたが持っているの?」
伸子は、自然そういうことまで訊かないわけにいかなくなった。
「それが、そうじゃないんだ。一緒くたになってしまっているんだ。僕たち二人なら、出るたんびにタクシーにのるわけじゃないし、一流のレストランへ行きたいわけじゃないし、倹約に、能率的に、若いものらしくつかえるんだ。今のまんまなら、結局、総額は頭わりで、不合理きわまるのさ。おやじにだって、そんなことぐらいわかりきっているはずなんだ」
若い二人は、船の上でも、パリへついてからでも、少額ずつ小遣いをあてがわれているだけだ、ということを、伸子は、その晩の話しで知らされたのだった。
段々話が深く具体的になって行くにつれて、伸子は苦しくなった。そして、ことのいきさつ全体に恥しさを感じるのだった。和一郎と小枝の結婚を承認するということを、こんどの旅行へ結びつけた親たちのやりかた。伸子のきもちからみると、どことなくすっきりしない小枝の婚資のつかいかた。そと目に派手で、内実、それほど充実したものでない佐々の家の風からおこる無理、というより伸子に云わせれば、いやしさと知らない中流的ないやしさで、ごたついている一家の旅姿を、伸子はせつなく思うのだった。
泰造の、いわゆる英国紳士らしい常識、良い判断とよばれているものが、このいきさつに関して一向はたらきをあらわしていないようなのも、新しく伸子を考えさせることだった。泰造はすっかり、多計代の企画にしたがっているだけのように思える。保が死んだ失望と歎きは、泰造の心もちを、そんなにうちくだいてしまったのだろうか。多計代のいうなりにする、ということの中に何か泰造の言葉にあらわさない保への供養があるのではないだろうか。ナポリで、上陸しない船の上から街の灯を見て泰造が泣いた、というみんなの話は、伸子の胸をさしとおした。みんなの病的に過敏にされている感情と、泰造の神経のつかれが感じられて。
話したかったことを、ともかく話しきったという様子で、タバコをふかしはじめた和一郎に、長い沈黙ののち伸子はぽつり、ぽつり云った。
「何しろ、うちはむずかしいうちなのよ。小枝ちゃんだって、姪とお嫁さんと、こうまでちがうもんだっていうことは思わなかったでしょう? 佐々のうちには、たしかに特別つよく特徴があらわれているんだけれど、つまりは日本の旧い家族というものの考えかたよ、ね。それに日本の中流というものの経済的な貧弱さよ、ね」
デュトに住んでいる画家の磯崎恭介とその美しくて忍耐深い妻の須美子が、故国の親との間にもっている辛い関係にしろ、佐々のうちでもめている事情の別の一面なのだった。
「外国へ出ると、誰でも一応日本のいろんなことから自由になったように思うし、自由にしていいはずだと思うから、矛盾がひどくわかって来るんだわ。自分の国で窮屈な思いをしている国の人ほど、外国へ出ると、外国は自由だと思ってのびようとするのよ。だけれど、ここでだって、セイヌ河からみもちの若い女の溺れた死骸が毎日あがっているのよ。新聞でみてるでしょう? 木炭ガスで自殺している貧しい親子があるわ。あなたがただって、もうどうせここまで来てしまっているんだもの、できるだけ智慧をはたらかせて、生活のいろんな面のなかから自分たちの方針を立てて行かなくちゃ。いま、和一郎さんが腹を立てているのも、もっともだけれど、だって、怒るために、何もパリまで来たわけじゃないんでしょう。ねえ、小枝ちゃん」
「わたしは、正直なところ、お兄さまがおこるのさえ、やめて下すったらと思うの。わたし、背中のぬけ
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